先日の京都出張の際にお伺いさせて頂きました、西陣織物の染屋さん「京都染工所」、本日はその見学の記録をまとめていきたいと思います。
当店で取り扱っておりますネクタイブランド「フランコスパダ」も、当染工所で加工された絹糸が実際に使用されております。
僕の勝手な固定概念で、職人さんと言えば頑固で、怖くて、パソコンなんてチマチマしたもん触ってたまるかぃ!みたいなイメージだったのですが、ほんと良い意味で期待を裏切られた結果となりました。
お話したい事がいっぱいありますので、さっそく本編へ参りましょう!!
ご紹介させて頂く職人さんについて
代々家業として西陣織の染色技術を受け継いでこられた方で、特に最近はシルクネクタイの仕事を多く受けているそうです。
西陣織は日本伝統の絹織物ですが、最近は時代の変化と共に、ネクタイなどシルク製の服飾雑貨を手掛けている工場も多いそうです。
これは後で調べて分かった事なのですが、受験資格は7年以上の実務経験がある方なのだそうです!他の資格ではこんな条件聞いた事が無かったので、ネットで調べてビックリしました!
要は、最低でも7年は実務経験がある人じゃないと会得出来ない技術だろうと思うので、糸染めというのは非常に奥の深い職人技なんだなと思いました。
こちらの検定では、いわゆる「勘染め(かんぞめ)」という、勘だけで染料を混ぜ合わせて色を合わせるという技術等が試されるそうです。
そうやって高度な技術や技法を保持していると認められた職人だけが、伝統工芸士として認定されるそうです。
そんなすごい肩書をお持ちにも関わらず、髙松様は「こんな資格があるからって仕事が増えるわけじゃないから(笑)」と笑っておられました。写真の証明書も、髙松様の奥様が思い出したように押し入れから出してきた物です。
作業工程1、精練(せいれん)
上の写真はシルクの原料となる生糸です。お蚕(かいこ)さんが作った丸い繭(まゆ)を解いて、糸にした状態です。
シルクと言えば、ツルツルとした肌触りと美しい光沢が特徴ですが、この時点では触り心地はゴワゴワで、光沢もありません。なぜなら、糸の表面に「セリシン」というタンパク質が付着しているからです。
皆様が知っている絹糸の状態にするには、石鹸等の入った熱湯で炊き込んで、セリシン等の不純物を取り除く「精練(せいれん)」と呼ばれる作業を経る必要があるのです。
僕は、職人さんと言えばアナログな道具で作業していると思ってたので、きっと手でワシャワシャと洗うのかと思っていたのですが、実はこんなに格好良い機械で作業をしているのです!
作業場にはあらゆる機械やパイプ等が張り巡らされていて、僕は「ジブリの映画か何かで見たやつだ!」と思いました。まるでエンジンの内部にいるような感覚です。
上部は吹き抜けのような感じになっていて、換気には万全の対策をされているのですが、それでもかなり暑いですね!
この精練は、単に洗剤を入れて洗うだけでなく、原料の生糸の特徴や、染めのオーダー内容も考慮して、最も適切な精練方法を選択するのだそうです。
要するに機械によって作業が効率化されているだけであって、結局は糸の調子を見ながら勘と経験を頼りに作業していく職人技なのです。
職人と言うと「全て手作業で~」のようなフレーズがお決まりなので、機械仕事と言うと何となく手抜きのようなイメージがありましたが、職人が本当に力を注ぐべき所に注力出来るよう、近代ではこのように機械化が進んでいるのです。
作業工程2、染色
また、こちらの染料ですが、そのまま下水に流しても、環境的な問題が無いものだけを使用しているそうです。
近年では様々な研究によって新たな有害物質が発見されるなどして、染料には様々な制限が設けられているそうです。
染料が1つ使えなくなるだけでも作業はガラっと変わってきますが、製造メーカーからは「前と同じ色で」とオーダーが来るので、これは非常に難しい部分です。
これ、実はすっごい高価なソフトらしいのですが、どの染料をどれだけ混ぜればいいか、自動的に計算してくれるソフトなのだそうです。
冒頭でも言いましたが、僕は職人と言えばPCなど無縁の世界だと思っていたのですが、第一線で活躍され、「スピード、コスト、品質」の全てを求められる職人さんだからこそ、こういったテクノロジーもフルに使いこなして仕事をされているのだと学びました。
染料を含んだお湯が機械の中を循環する仕組みになっており、満遍なく染料が絹糸に染み込んでいきます。
昔はこういった作業も、棒に絹糸をかけて、釜に浸した染料に漬けて、職人夫婦でえっさほいさと人力で行っていたそうなのですが、現在は全て機械で行っているそうです。
しかしポイントは、人力でやっても機械でやっても、クオリティーに影響が無い作業だという事です。要するに、品質、作業効率、コストという面で有利であれば、どんどん最新の技術を取り入れているという事なんですね。
伝統的な作業方法にこだわる職人像は、僕ら素人が勝手に生み出した幻想で、実際の現場は大変に合理的で、実にストイックなんだなと感じました。
作業工程3、色合わせ
ここまで完璧に同じ色が再現できるのかと、最新テクノロジーの精度に驚かされていたら、髙松様よりその驚きを超える衝撃の一言が、、!!
「あ、これはまだ全然色合わせ出来てないですよ」
ビックリですよね、これでまだ全然合っていないんですって!こうやって写真で見比べてみると、確かに微妙に違うような気もしますが、肉眼で見た時は素人の僕では全く見分けがつかないほど同色でした。
要するにコンピューターで出来る事というのは、ザックリ近い色にするだけで、結局は職人の勘と経験が不可欠なのです。
実際に作業されている所を見るとビックリするのですが、染料の色、それをお湯に溶かした色、染料に絹糸を浸した直後の色、これら全て、乾燥後の染め上がり色と全く異なるのです。
しかも絹糸は化学繊維と違い、自然が生んだ天然繊維なので、収穫した年によって微妙に個性も異なり、それによって染まり具合も微妙に変わってくるのです。
本当に経験だけが物を言う世界という事で、一級技能士の受験資格の時にお話した「実務経験7年以上」というのも、この現場を見れば的確な采配だなと思いました。
そう、太陽光の下だと同じように見えた色が、蛍光灯の下だと全然色味が違うんです!!
奥の方は艶が合って鮮やかですが、手前の方は少しトーンの落ち着いた色味です。
写真で撮ったらどうなるのかなと思っていましたが、やっぱり写真でも全然色味が違いますね。
詳しい事までは僕も良く分からなかったのですが、要は染料によって光の反射率や屈折率というのが異なるらしく、光源によって色味が大きく変わってくるのだそうです。
当然製造メーカーからは「店内でも店外でも同じ見え方の糸」という事でオーダーが来ます。いくら太陽光の下では鮮やかに見える色味だとしても、店内に並べた時にくすんでしまうようでは意味が無いからです。
様々な環境下で色味を肉眼で確認し、色を合わせていくのが染色職人の技の見せ所なのです。
精度の高い染色が出来る事はもちろん、その品質のまま数多くのオーダーをいかに手早くこなしていくかも重要になりますので、一人前と呼ばれる職人になるには、いかに険しい道なのかを思い知らされます。
一流の職人が色染したシルクネクタイを、是非お試しください!
僕は、職人と言えば「技は親方の背中で学べ!」という世界だと思っていたので、作業中の様子をこっそり覗き見するような取材を予測していたのですが、髙松様は僕たちの為にわざわざお仕事の手を止めて、精練前の生糸や、染色前のセッティングの状態など色々と前準備をして頂けて、本当に感謝の気持ちしかありません!
職人と言えば頑固と言うイメージとは正反対で、非常にフレンドリーに染色に関する様々な技術をご紹介頂きました!
髙松様と奥様、そして今回の貴重な機会をご用意頂いたフランコスパダの企画元「永島服飾株式会社」、工場案内をして頂いたネクタイの総合メーカー「株式会社西栄」、皆様にこの場を借りて改めてお礼を申し上げます。
様々なファッションブランドが好きな方は数多くいらっしゃると思いますが、こういった現場まで知っている方というのは、恐らくほとんど居ないんじゃないかと思います。
多くの人はブランドロゴを見て商品を買うかどうか悩まれるかと思いますが、実際にクオリティーを左右するのは、現場で仕事をする職人さんの技術なのです。
近年ではファッション業界の景気は右肩下がりと言われておりますが、僕はその元凶の1つが表面的なブランディングばかりが先行してしまい、こういった職人さん達の技術が消費者に伝えられていないからだと思っています。
だからこそ僕らは、今まで誰も踏み込まなかった物作りの裏側までリサーチをして、本当にこだわって作られた、真に高品質な製品だけをセレクトして、そのクオリティーの秘密を事細かく皆様にご紹介していきたいと考えております。
髙松様のように、素晴らしい技術をもった職人が染め上げた絹糸は大変に美しく、そんな絹糸で織られたネクタイを身に纏えば、コーディネートは一層上品に彩られます。
そんな素晴らしいネクタイを巻いて仕事をこなせば、何にも代え難い人生の豊かさを、日々感じて頂けると思います。
ネクタイと言えば海外ブランドが市場の主流ですが、日本という国は、絹織物が元々めちゃくちゃ得意な国なんです!!最盛期は絹糸の故郷である中国をおさえて、生産量世界第一位になった時代もありました!
海外ブランドの巧みなブランディングも魅力的ですが、特に日本人なら、日本の素晴らしい品質のネクタイを選んで頂きたいなと、私は心から思っております。
という事で!生糸が綺麗に染め上がりましたので、次はネクタイの設計図を作る紋屋さんに行ってみましょう!
つづく