前回のブログでは、絹織物の設計図となる紋紙(もんがみ)を作る紋屋さん「株式会社西栄」をご紹介させて頂きましたが、今回は実際にシルクを織る機屋さん「梅武織物株式会社」を紹介していこうと思います。
機織りと聞くと、日本人なら最初に思い浮かべるのは、鶴の恩返しに出てくるような木製の織機ではないでしょうか?お恥ずかしいお話なのですが、僕は日本の機屋と言えば、あそこまでアナログでないにせよ、かなり手作業が多い現場だと思っておりました。
しかし現実は真逆で、非常に合理的に機械化、システム化が進んだハイテクな現場だったんです。
本日はそんな絹織物の生産背景をご紹介していこうと思います!
丹後ちりめんで有名な、京丹後で営業をする梅武織物株式会社
西陣地区と言えば西陣織が有名ですが、こちらの京丹後は、300年の歴史がある「丹後ちりめん」で有名な絹織物産地です。
京丹後は程よく雨が降り湿度が保たれるので、絹織物に適した気候なのだそうです。そういった環境もあって、この辺りの地域では絹織物産業が発展しました。
写真左手が梅武織物株式会社なのですが、こんな住宅地に会社があるんですよね。というのも、元々こういった織物産業は農家の副業として始める方が多かったそうなのです。その為、民家がそのまま工場となっていき、現在の形となりました。
現在では多くが廃業してしまったそうなのですが、最盛期の頃は、この辺りの家の人達の多くが織物産業に携わっていて、現在では国内ではほとんど居なくなってしまった、お蚕さんを育てて繭玉を生産する養蚕家(ようさんか)の方も数多くいらっしゃったそうです。
ジャカードメーカーの技術屋として腕を磨いた、梅田正彦社長
梅田社長は機屋の家に生まれ、織物関係の学校を卒業後、ジャカード(織機)メーカーに勤めた後で家業の機屋を継ぎました。
驚く事に、梅武織物株式会社が管理する織機は、全て梅田社長が修理・メンテナンスを行っているのだそうです。
梅田社長はジャカードメーカーに努めていた時に、技術屋として日本全国を回り、西陣織や丹後ちりめん以外にも、様々な織物産業に関わってきました。そういった仕事を通して様々な織物の特色を学び、その経験が今の仕事にも大いに役立っているそうです。
梅田社長は、自分の織機を丹念にメンテナンス・調整するだけでなく、オリジナルの改造をする場合もあるそうです。機械で織っているとは言え、機織りは職人技です。ここまで自由自在に織機を使いこなしているからこそ、大変に上質な絹織物を織る事が出来るのです。
シャトル織機にも勝る、レピア織機で織った上質な絹織物
僕は今まで、日本の絹織物は昔ながらのシャトル織機を使っているから品質が高いのだと思っていたのですが、梅田社長が管理するレピア織機が織った絹織物に関しては、従来のシャトル織機で生産した生地よりもクオリティーは上がっているそうです。
その最大のポイントは、生地を織るスピードです。
シャトル織機で織った絹織物が、なぜ品質が高いと言われるのかと言うと、糸をゆっくりと織る為に空気が生地に含まれるからです。
梅田社長の管理するレピア織機は、織りスピードを超低速に設定する事で、シャトル織機で織ったような、空気をたっぷりと含んだ絹織物を織る事が出来るのです。
また、横幅が狭い織機を使っている事もクオリティーの秘訣だそうです。織機の横幅は広ければ広い程生産効率は上がるのですが、その分金属のたわみ等により、品質は下がってしまうのだそうです。
海外で大量生産された絹織物というのは、横幅の広い織機で超高速で織っている為に、コストは安く仕上げる事が出来るのですが、どうしても機械的で味気ない仕上がりになってしまうのです。
梅武織物株式会社は、織りスピード以外にも様々な細かな調整を行う事で、従来のシャトル織機にも勝る素晴らしい絹織物を生産する事が出来るのです。
これも、単に機械の性能が良いとか、コストパフォーマンスを犠牲にしているからではなく、梅田社長が上質な絹織物の魅力と、織機の仕組みを熟知しているからこそ出来る職人技なのです。
織機の頭脳となる機械部分
それでは、その中二階に登ってみましょう。
手前に見えるのが、株式会社西栄で作っていた紋紙です。このように紋紙をセットする事で、縦糸と横糸をコントロールして、様々な柄の生地を織る事が出来ます。
最大のポイントは、紋紙を必要としない所です。デザインデータを読み込むだけで生地が織れるので、インターネット上でのやりとりだけで作業が完結出来ます。
旧型の織機はアナログな仕組みである分、どうしても稀に針がとぶなど機械的なミスが発生してしまうそうなのですが、最新式はそういった品質面も大きく改善されているそうです。
物凄く値段が高い為、まだまだ旧式の織機が主役ではあるそうなのですが、今後は少しずつ最新式に変わっていく予定だそうです。
一般の人が思い描く職人さんというのは、何となく昔ながらの手作業を守っているようなイメージがありますが、実際の現場は、品質・コスト共に有利であれば、どんどん新しい技術を取り入れているのです。
たくさんの色を揃える絹糸保管所
梅武織物株式会社は、常時たくさんの色の絹糸をストックしているので、サンプル製作などスピード命の案件の際に、染色屋の仕事を待つことなく製品を納品する事が出来ます。
更に、先程ご紹介しました最新式の織機を使えば紋紙も不要なので、オーダーをもらって即日サンプルを仕上げる事も可能だそうです。
昔から変わらぬ糸繰場の光景
こちらは、仕入れた綛(かせ)を織機で使えるようにボビンに巻き返す、「糸繰場」という所です。
先程の機場の光景と比べて、突然時代が遡ったような空間だったものですから、僕は思わず「ここは昔使用していた施設なのですか、、?」と聞いてしまったのですが、ちゃんと現役で稼働している工場なのだそうです。
この「蜘蛛(くも)」と呼ばれる滑車のような道具で糸を巻き取っていくのですが、機械と言うよりも「カラクリ」という言葉が合うような仕組みで、スイッチを入れるとボビンがクルクルと回りながら、左右にゆっくりと振れ、均等に糸が巻き取られていきます。
しかし、現代も稼働しているという事は、それだけ完成された仕組みだという事です。最新鋭の設備の傍で、こういった昔ながらの知恵が未だ現役で活躍しているというのは、何とも感慨深いものがありますね。
ハイレベルな技術を持った職人が運営する会社だから、圧倒的に品質に差があるのです
本当はもっと専門的なお話も色々とご紹介頂いたのですが、今回は、一般の方がより絹織物に興味を持って頂けるような部分を抜粋して記事にさせて頂きました。
僕はこの取材に伺う前まで、なぜフランコスパダのネクタイはこんなにも品質が良いのだろう、このクオリティーの秘密はどこにあるのだろうかと思っていたのですが、僕の結論は、梅田社長を含む、現場で活躍される職人さん達のスキルと意識が非常に高いからだという考えに落ち着きました。
織機の織りスピードなど、一つ一つを紐解いていけば高品質に直結する要因は色々あるのですが、「コレがこうだから高品質!」という単純なものではなく、様々な経験、センス、技術などが複雑に折り重なって、高品質な製品が生産されるのだと学びました。
梅武織物株式会社の手掛ける絹織物に関して言えば、梅田社長のスキルが高すぎる事がクオリティーを担保する最重要ポイントだと思います。
代々機屋を家業とする家に生まれ、手作業による基本的な機織り技術を学び、その上でジャカードメーカーの技術屋として勤務し、織機の仕組みを学びながら、各地に点在する日本の伝統的な絹織物に触れてセンスを磨き、現在では日本を代表する高級ネクタイメーカーに生地を卸しているのです。まさに絹織物界のレジェンドですね!
現場を知らない、どこぞの資本家が運営する会社ではなく、ハイレベルな技術を持った職人が自ら運営する会社だからこそ、圧倒的に品質に差があるのです!
別の記事でも書いておりますが、現在の市場で物を売る為には、正直、品質よりもブランディングが重要だと思います。だから、商売上手な資本家が大成功するのだと僕は思っています。
しかし、インターネットの発達により、徐々に消費者の思考が、ブランディングよりも品質を重視し始めたように僕は感じています。
だからこそ、僕らはこうやって、本当にクオリティーの高い環境で生産された商品を詳しくご紹介して、高品質な商品を望む消費者により良い製品をお届けし、ハイレベルな職人が潤おい、それによって更にハイレベルな技術がメキメキと育っていくような好循環を生み出したいという思いで、東京ヒマワリを運営しております。
という事で!やっと生地が織りあがりましたので、次回はこの生地を裁断・縫製する工場の取材日記をお届けしたいと思います!
以上、おしまい!